医師・薬剤師・医学生らによるアンサンブル.ある病院のパーティで芸を頼まれ,即席で弦楽四重奏を演奏したら意外に好評だったことに端を発し,口コミで富山県内の病院関係者に知れ渡った.現在では「癒しのアンサンブル」として,病院コンサートをはじめ学会や医師会・市民公開講座などで演奏している.
平成15年に第16回アマチュア室内楽フェスティバル(ACF2003)にノミネートされ,銀座・王子ホールで全国デビューした.第54回日本麻酔科学会「音楽の夕べ」(平成19年,札幌)にて最優秀賞を受賞.平成22年度みなとみらいアマチュア室内楽フェスティバル(ACF2010)ではオオトリを飾った.富山大学附属病院の医療安全ビデオ「3-Word for Safety」で音楽を担当するなど,さまざまな音楽シーンで活躍している.
ちなみにモルフェウスはギリシャ神話に出てくる夢の神様で,麻薬のモルヒネの語源である.【注意】モルフェウス弦楽四重奏団の演奏は依存性を来すことがあります.用法・用量を守って正しくお聴き下さい(ウソですよ,念のため).【副作用】まれに眠気を生じることがあります(ホントです,てへぺろ (・ω<) ).
Tango Ballet (Piazzolla)
曲目解説
その85歳のおばあちゃんは,麻酔から醒めた後も呼吸が弱かった.頚椎の大手術後だったから気道閉塞の恐れもあり心配ではあったが,呼吸機能のデータは全て正常範囲だったので病室へ帰してしまった.私の悪い予感は的中した.深夜におばあちゃんの呼吸が停止したのだ.私が病室へ駆けつけると,すでにおばあちゃんの意識はなく,顔面がみるみるチアノーゼに覆われてゆく.私はナースからアンビュー(注1)を引ったくると叫んだ.
「コード・ブルー(注2)かけて!」
医療崩壊という言葉が聞かれるようになって久しい.手術は成功して当たり前,うまく行かないと,ミスだ医療事故だと訴えられる.それではたまらないから,病院は山のような承諾書を用意して患者にサインさせる.こうして医は仁術ではなく契約となり下がってしまった.
本当にそれでいいのだろうか.人はミスをする,いやミスをするからこそ機械でなく人だと言える.ミスをしたら処分という懲罰システムが悲惨な結果をもたらすことは,歴史が証明している.医者も人だからミスを免れないこともあるのだ.患者だって人だから,薬を飲み忘れることがあれば,禁煙を守れないこともあるだろう.それを互いに誹り合う医療は不毛である.ミスを未然に防ぐフェイル・セーフ・システムの構築は自明のことだが,それ以前に医者と患者が人として接し理解し合うところに,真の医療が育まれるのではないか.その模索の中で,モルフェウス弦楽四重奏団の病院コンサートは生まれた.
ピアソラのタンゴ・バレエは,医療崩壊を嘆く独奏バイオリンの咆哮と,叩き付けるコル・レーニョ(注3)で幕を開ける.4人の奏者が反発し,時には妥協しながら曲が進み,フィナーレはタンゴのリズムの中で全員が協調して大円団を迎える.
「おばあちゃん,ずいぶん元気になりましたね.」
手術から1週間後,おばあちゃんの容態はすっかり安定した.歩行訓練のリハビリも始まった.実は,おばあちゃんはモルフェウス弦楽四重奏団のファンだった.以前の病院コンサートには車椅子で聴きに来ていた.
「次の病院コンサートは,自分で歩いて聴きに行きますからね,せろ弾きの先生!」
注1:人工呼吸用のバッグとマスク
注2:院内緊急コール
注3:弓の木の部分で弦を叩く奏法