神経ネットワークの断片化から解析した全身麻酔の作用メカニズム
Mechanisms of general anesthesia can be explained by fragmentation of neuronal network
富山大学医学部 麻酔科学講座
佐々木利佳,廣田弘毅,大西健太
これまでの検討から,全身麻酔薬は神経ネットワークを断片化することが明らかとなった.今回我々は,独自に作製したラット嗅内皮質スライスの神経ネットワークにおいて,作用の異なる全身麻酔薬および神経作動薬の効果を検討し,その作用メカニズムを考察した.
方法:研究に先立ち動物実験委員会の承認を得た(A2021医-2).麻酔した雄性ウィスターラットから脳を摘出し,嗅内皮質スライスを作製した.嗅内野外側および内背側に2本の細胞外電極をそれぞれ刺入し,θ波(4~8 Hz)を記録した.θ波は空間認知に関連する脳波であり,アセチルコリン作動薬であるカルバコール前処置により誘発される.2つの神経ネットワークのθ波を相互相関解析したヒストグラムおよび相互相関係数(CCF)を算出し検討に用いた.CCFは,2つのネットワークの相互相関が高いと1.0に近い値をとり,ネットワークが断片化すると0に近づく(図).結果は平均±標準偏差で表した.検定はANOVAを用い,P<0.05を有意とした.
結果:カルバコール前処置後のCCFは0.88±0.15 [n=11] を示した.揮発性麻酔薬デスフルラン(6%),静脈麻酔薬プロポフォール(10 µM),ベンゾジアゼピン系麻酔薬レミマゾラム(0.1 µM)投与により,CCFはそれぞれ0.32±0.15 [n=11] ,0.23±0.20 [n=6] ,0.29±0.26 [n=5] と有意に抑制されたことから,全身麻酔薬は共通して神経ネットワークを断片化すると考えられた.一方,塩酸モルヒネやGABA(A)受容体作動薬ムシモール,GABA(B)受容体作動薬バクロフェンを適用しても断片化は認められなかったが,非NMDA受容体遮断薬CNQXおよびNMDA受容体遮断薬AP5により断片化が誘導された.
結論:全身麻酔薬は神経ネットワーク断片化という共通の現象を生じた.グルタミン酸作動性メカニズムが全身麻酔の意識消失作用に関わっている可能性が示唆された.
Back to Top